細田守監督の最新作
田舎の内気な女子高生すずは、インターネットの仮想世界＜U（ユー）＞では歌姫ベルとして絶大な人気を誇っていた
そんなある日、ベルの前に凶暴で嫌われている竜が現れ…………
凄い力量と才能の持ち主として、以前からファンだった細田監督
だが、ここ最近の作品、「バケモノの子」や「未来のミライ」はいまいちだった
そのため、本作も過度な期待はしていなかったのだが…………
めちゃくちゃ良かった
細田守監督の集大成といえる出来栄えになっている
内気で引っ込み思案の女子高生すずが、広大な仮想世界＜U＞で歌姫ベルとして瞬く間に有名になっていく
一種のサクセスストーリーとしても面白い
すずの住む田舎と仮想世界＜U＞の対比も見事
そして、すずを演じる中村佳穂の歌声が、本当に素晴らしい
青春の切なさ、ダイナミックなアクション、魅力的なキャラクターたち
ずっと見たかった細田作品が帰ってきた！！
細田守のファンなら、絶対に劇場で見るべきだろう
予告編
作品情報
作品名「竜とそばかすの姫」
監督：細田守
キャスト：中村佳穂、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら、森川智之、津田健次郎、小山茉美、宮野真守、役所広司、佐藤健
上映時間：121分
アニメーション制作：スタジオ地図
製作国：日本（2021年）
ざっくりあらすじ
田舎の女子高生すずは、幼い頃に母を亡くして以来、大好きだった歌を歌うことが出来なくなっていた。だが、インターネットの仮想世界＜U（ユー）＞に足を踏み入れたことをきっかけに、歌姫のベルとして注目されていく。そんな時、＜U＞の世界で嫌われ者の存在である竜が、ベルの前に現れ…………
感想（ここからネタバレ）
予想以上の出来栄えで大興奮！！
仮想世界
自然豊かな高知に住む内藤鈴（すず）は、母親と一緒に歌うことが大好きだった
だが、その母はすずが幼い頃、よその知らない子を救おうとして、溺れて死んだ
それ以来、すずは歌を歌うことが出来なくなってしまった
17歳の女子高生になったすずは、内向的で引っ込み思案な性格になっていた
クラスでも埋もれた存在
すずは胸の内の寂しさを、曲を作ることで紛らわせていた
そんなある日、すずは親友のヒロちゃんに誘われ、全世界で50億人以上が集うインターネット上の仮想世界＜U（ユー）＞に足を踏み入れた
＜U＞では自分の分身「As（アズ）」を作り、全くの別人として生きることが出来る
歌うことが出来なくなっていたすず
ところが自分の分身「ベル」としてなら、自然と歌うことが出来た
ベルの歌声は＜U＞に集う世界中の人々の胸を打ち、瞬く間に広まっていった
みるみるうちに人気者になってしまったベル
パニックになったすずは、ヒロちゃんにすがりつく
ベルはヒロちゃんのプロデュースで、さらに人気が増していった
世界中がベルの話題で持ちきりだ
数億のAsが集うベルのコンサートの日
その盛り上がりの真っただ中に乱入してきたのは、「竜」と呼ばれる謎の存在だった
竜が自分勝手に暴れて、コンサートはめちゃくちゃになった
＜U＞で皆から嫌われている竜
しかし、何故かすずは竜に惹きつけられた
あの人は一体、誰なの？
その頃、＜U＞では竜の正体を暴き排除しようという動きが加速していた…………
内藤鈴（すず） CV.中村佳穂
内気で自分に自信のない女子高生
母親が死んでから、父親とも溝ができてしまっている
灰色のような毎日を送っていたすず
だが、＜U＞に足を踏み入れたことで、世界が広がり…………
「時をかける少女」の真琴
「サマーウォーズ」の夏希
細田作品のヒロインというと、明るく元気なイメージが強かった
地味で内気なすずは、異色といえるかも知れない
しかし、すずの過去が丁寧に描かれ、自然と感情移入できた
次第に明らかになっていくすずの優しさや芯の強さ
頑張る彼女を誰もが応援したくなるだろう
すずは非常に魅力的なヒロインだった
ベル
＜U＞におけるすずの分身
ずっと人前で歌えなかったすず
だが、ベルとしてなら歌うことが出来る
幼い頃に負った傷に、ずっと苦しんできた
そんなすずの歌声は、人々の胸を打ち…………
キャラクターデザインを手がけたのは「アナと雪の女王」のジン・キム
竜 CV.佐藤健
凶悪で乱暴
＜U＞で暴れまわっている
正体は誰も知らない
皆から嫌われているが、子供たちには人気がある
＜U＞の秩序を乱す者として、処罰されそうになるが…………
欠落
すずが飼っている犬には前足がない
愛用のマグカップもふちが欠けている
そして、幼い頃に死んだ母親
すずの生活には様々なものが欠けている
それはすずの心のありようを表しているようにも見えた
だが、仮想世界＜U＞では別の自分になれる
すずは欠けていたもの、歌を取り戻すことが出来た
ベルと竜
細田守監督はインタビューで、今回は「美女と野獣」をやりたいと思ったと語っていた
そのためベルと竜の恋愛が描かれるのだと予想していた
ところが実際は違った
幼い頃に見ず知らずの子を救うために、濁流に飛び込んだすずの母親
子供は救助されたが、母親は帰ってこなかった
なぜ知らない子のために、自分を置いて母親は死んでしまったのか？
いくら考えても分からない
納得できない
ネットでは母親は「無謀」だとか「無責任」だとか叩かれていた
だが、すずが傷ついている竜を助けたいと心から願った時、初めて母親の気持ちを理解する
目の前に苦しんでいる人がいる
手を差し伸べたい
すずも母親と同じだったのだ
集大成
「時をかける少女」で描かれた青春のきらめき、切なさ
「サマーウォーズ」や「おおかみこどもの雨と雪」で描かれた美しい田舎の風景
「バケモノの子」で描かれた凶暴な怪物
そして「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!」などで描かれた仮想世界
本作は細田守監督の集大成といえる作品になっている
盛りだくさんだがそれぞれの要素が、高いレベルでまとめられている
また人物や背景の作画も素晴らしかった
ベルが歌うシーンも躍動感に満ちている
川のほとりを歩くすずたちのカットの繰り返しも、これぞ細田演出
ファンにはたまらない作品となっている
細田作品の到達点
以前、「未来のミライ」の感想で、最近の細田作品の問題点を挙げた
「おおかみこどもの雨と雪」以降、家族の物語に重点を置きすぎ、閉塞的な作品になっている
以前のように奥寺佐渡子のような実力のある脚本家と、一緒に物語を作って欲しい
だが、この「竜とそばかすの姫」も脚本は細田守の単独となっている
今回もあまり期待は出来ないと考えていた
ところが予想に反して、見事な出来だった
まず主人公を高校生に戻したことで、感情移入しやすくなっている
ここ数作はミニマムな世界を描いている印象だったが、本作では世界が開けている
アクションやミステリーなどエンターテイメント性が高い
久々に恋愛要素が復活したのも良かった
そして、最近の細田作品のテーマといえる「家族」
本作ではそれを前面に押し出さない
だが、完全に排除するのではなく、すずと母親の絆、裏テーマのような扱いになっている
おかげで非常にバランスがよくなり、作品の深みも増した
エンターテイメント性と作家性の両立を成功させたのだ
いくつもの問題点を、ここまで改善してくるとは思わなかった
脚本家としての細田守の力量を見誤っていたのかも知れない
実力のある脚本家とタッグを組んでほしいという気持ちは変わらないが、これなら今後も大いに期待できそうだ
まとめ
細田守監督の最新作
予想以上の出来栄えで大興奮
細田作品の凄味が戻ってきた
今後も日本のアニメの第一線を突っ走って欲しい
allcinema
https://www.allcinema.net/cinema/375099
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