Netflix「7月22日」感想 最悪のテロ発生!!人々はどう向き合ったか!?

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ノルウェーで実際に起きた最悪のテロ事件を映画化したものである
かなりの力作だ
だが正直言うと、あまりの凄惨な事件に見ていてかなり気が滅入った
それに144分はさすがに長い
そういうわけで見るのに体力はいるものの、見ごたえは十分
今年のNetflixを代表する1本なのは間違いないだろう


予告編

22 JULY | Official Trailer [HD] | Netflix

作品情報
作品名「7月22日」(原題22 July)
監督:ポール・グリーングラス
キャスト: アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ヨン・オイガーデン、ソルビョルン・ハール、 ジョナス・ストランド・グラヴリ
上映時間:144分
製作費:$20,000,000(IMDb推定)
製作国:ノルウェー、アイスランド、アメリカ(2018年)

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ざっくりあらすじ

2011年7月22日にノルウェーで史上最悪のテロが起こった。だが、生き残った被害者にはさらに辛い日々が待っていた………………

感想(ここからネタバレ)

金獅子賞に輝いたアルフォンソ・キュアロン監督の「Roma」
脚本賞を取ったコーエン兄弟の西部劇「The Ballad of Buster Scruggs」
今年のヴェネチア国際映画祭はNetflixの作品が猛威を振るった
そして、この「7月22日」もヴェネチアに出品された1本である

惨劇

2011年7月22日
その日、ノルウェーのウトヤ島では労働党青年部の集会が行われ、700人もの10代の若者が集まっていた
討論会にキャンプにサッカー
友人や兄弟も多く、集会は活気と笑い声に満ちていた

一方その頃、首都オスロの政府庁舎付近で爆発が起きる
庁舎の窓ガラスは割れ、通行人は血まみれで路上にうずくまっていた
空高く上る黒煙
救急車のサイレンが鳴り響き、警察車両が何台も駆け付ける
街の人々は騒然としていた

その爆弾を仕掛けた犯人はアンネシュ・ベーリング・ブレイビクという30代の男だった
車に積んだ爆弾を爆発させた後、男はその足でウトヤ島に向かった
警察官の制服を着てブレイビクは「島の警護に来た」と言って、フェリーで島に渡った

青年部の若者たちは首都での爆破事件をニュースで知り、浮足立っていた
突然、鳴り響く銃声
警官の制服を着た男が自動ライフルで、次々と仲間たちを狙い撃っている
パニックになり逃げ惑う若者たち
こうして一方的な虐殺が始まった

なんとも凄まじい序盤である
淡々と無慈悲に若者たちを撃ち殺していくブレイビク
あまりの凄惨さに目を覆いたくなった
こんなことが実際にあったというのだから恐ろしい

キャラクター

アンネシュ・ベーリング・ブレイビク
反移民、反イスラム主義で、自分のことをテンプル騎士団の一員だと名乗る
オスロの政府庁舎爆破とウトヤ島の銃乱射で計77人を殺害
裁判で自分の無実を訴える

ビリヤル
将来を有望視されていた10代の少年
ウトヤ島の集会に参加し、ブレイビクの襲撃に遭う

トリエ
ビリヤルの弟
兄と一緒に集会に参加する
少し気の弱いところがある

ゲイル・リッペスタッド
弁護士
ブレイビクから弁護を依頼される
彼の行いを嫌悪しながらも、弁護に徹する

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監督

ポール・グリーングラス
「ボーン・スプレマシー」以降のボーンシリーズを手掛け、一躍名声を得る
手持ちカメラを多用したドキュメンタリータッチが特徴
この「7月22日」では脚本も担当した

代表作

「キャプテン・フィリップス」
2009年にソマリア海域で起きた海賊船による貨物船人質事件を、トム・ハンクス主演で映画化
生々しいドキュメンタリータッチで、緊迫感たっぷりに描いた

キャプテン・フィリップス (字幕版)


「ユナイテッド93」
2001年9月11日の全米同時多発テロで、ユナイテッド93便が墜落するまでを内部から描いた問題作
この作品がもっとも「7月22日」に作風が近いかも知れない
テロの恐怖と、それに立ち向かう勇気が描かれる

ユナイテッド93 (字幕版)

類似作品

この「7月22日」に近いと思える作品をあげてみた


「パトリオット・デイ」
2013年4月15日に起こったボストンマラソン爆弾テロ事件の一部始終を描いた作品
爆弾テロの恐ろしさを凄まじい緊迫感で見せる
犯人を追いつめていく捜査ものとしても面白い
マーク・ウォールバーグ主演

「パトリオット・デイ」の感想はこちら

パトリオット・デイ(字幕版)


「エレファント」
ガス・バン・サント監督作品
99年のコロンバイン高校での事件を題材に、高校での銃乱射事件を乾いたタッチで描く
これは凄まじく後味の悪い映画
見終わった後、しばらく精神が不安定になった
若者が容赦なく撃ち殺されていくさまは、「7月22日」に重なる
カンヌ映画祭で初のパルムドールと監督賞のダブル受賞

犯人

ウトヤ島で数十人の若者を問答無用で射殺したアンネシュ・ベーリング・ブレイビク
通報により重装備した警官隊が島に渡る
当然、激しい銃撃戦が始まると予想していた
こんな奴、早く撃ち殺されればいい
正直、そう思っていた

ところがブレイビクはあれだけ殺しておきながら、警官たちを前にすると、あっさり銃を捨て投降する
拍子抜けするほどに

印象的な場面がある
移送されて刑事から尋問を受けるブレイビク
ところが彼は尋問を一時中断して欲しいと要請してくる
さっきのウトヤ島で指先を切ってしまったので、治療をして欲しいと言うのだ
このままでは化膿してしまうかも知れない

何十人もの罪のない若者の命を奪っておきながら、この身勝手な態度
見ていてはらわたが煮えくり返りそうだった
この男が平然と生きているのが許せない
正直、そんな心境になった
被害者やその家族や友人をあれだけ苦しめておきながら、まったく反省の色がないのだ
この作品ではブレイビクという男の異質さを、見事すぎるほどに描いている

弁護士

ゲイル・リッペスタッドはブレイビクから指名され、弁護を引き受ける
全ての者には弁護を受ける権利がある
たとえ、それがブレイビクのような男でも

だが、この大量殺人犯の弁護を引き受けたゲイルに、世間の風当たりは冷たかった
夜な夜な鳴る電話
出ると罵りの言葉と共に切れてしまう
さらには娘の小学校から呼び出された
PTAから苦情が来てるので、他校に転校して欲しいと言うのだ

ウトヤ島での殺戮を嬉々として語るブレイビク
もし、その中に自分の子供がいたら………………
そう考えると暗然とした気持ちになる
それでもゲイルは自分の職務を全うしようとするのだった

兄弟

ビリヤル・ハンセンはウトヤ島で襲撃され、弟をかばって5発の銃弾を受けた
それにより右目と左手の指を3本失った
銃弾の破片の一部は脳の中に残り、もしそれが脳幹を傷つけると致命傷になる
いつ、その日が来てもおかしくないのだ

将来を有望視されていたビリヤルは全てを失った
殺された者の中には親友もいた
それなのに犯人はのうのうと生きているのだ
なぜ、こんな理不尽な目に遭わなければならないのか

弟のトリエが無傷だったのが救いだった
だが、退院して家に帰った後も、トリエの態度はどこかよそよそしい
父親と母親はビリヤルにかかり切り
弟もあの事件で心に大きな傷を負っていたのだ

将来に絶望し自暴自棄になるビリヤル
そんな時、通知が届く
裁判で事件の証言をして欲しいというのだ
両親は断っていいと言ってくれた
ビリヤルも裁判であの犯人を直視できる自信がない
しかし、負けたくない
殺された仲間たちの仇をとりたい

あの犯人の前で無様な姿をさらしたくない
ビリヤルは今まで以上に真剣に、リハビリに取り組むようになった

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裁判

そうして事件の裁判の日がやってきた
母親にも証言を断られ、ブレイビクを擁護する者は誰もいなかった
しかし、ブレイビクは不敵な態度を法廷でも崩さなかった

いよいよ法廷で証言するビリヤル
ブレイビクを前にして最初は気圧されていたが、徐々に言葉に力がこもってくる

「あの事件から僕は自分が生きているのかどうか分からなかった。でも、今ならわかる。僕には家族がいる。友人も。思い出も夢も希望も愛もある。でも、こいつには何もない。独りぼっちだ。刑務所で朽ちていくことになる。僕は生き残った。これからも生きていく」

ビリヤルの言葉で虚勢を張っていたブレイビクの本当の姿が浮き彫りになる
彼は何も持っていない
空っぽだったのだ

ブレイビクには禁錮21年の判決が下された
裁判が終わり、ブレイビクとゲイルの別れの日が来る

「面会に来てくれるかい?」
「いや、行かないだろう」

ブレイビクの差し出した握手の手を、ゲイルは握らずに立ち去った

この作品の問題点

渾身の作品である
特に序盤の襲撃シーンとクライマックスの裁判のシーンの出来は見事
見終わって満足感を味わった

だが、この作品には問題点がある
不謹慎な言い方だが序盤のテロのシーンが凄すぎたのだ
政府庁舎付近での大爆発
ウトヤ島での虐殺
凄まじい緊迫感で、完全に圧倒された

しかし、あくまでそれはこの作品の前フリ
事件のその後がメインテーマであり本筋だった

ところが序盤が衝撃的すぎたために、何を焦点に物語を追えばいいのか掴めない
エピローグを延々と見せられている気分を味わった
もちろん物語は裁判に収束していき、クライマックスは盛り上がる
だが、そこまでが長い
犯人のその後やビリヤルの闘病生活など見どころもあるが、中だるみ感は否めなかった

「ハドソン川の奇跡」との比較

頭に浮かんだのはクリント・イーストウッド監督作の「ハドソン川の奇跡」のこと
「7月22日」と「ハドソン川の奇跡」
この2作には共通点が多い
どちらも実話をベースにしていること
最初に大きな事件が起きて、最後に裁判で締めくくられること(「ハドソン川の奇跡」は正確には公聴会)

だが、この2作の構成には大きな違いがある
「7月22日」は時間軸通りに描いた
「ハドソン川の奇跡」では最初の航空機事故の部分を鮮明には見せなかったのである
それにより観客は事故の真相が気になり、物語に引っ張られていく
そして、事故の一部始終を回想という形で中盤で描いたのだ
最初に作品の最大の見せ場を出してしまうと、観客の興味は尻すぼみになってしまう
「ハドソン川」のスタッフはそれを回避するために、構成を工夫したのである
それにより緊張感が途切れることなく観客は最後まで楽しめた

ポール・グリーングラス監督はきっと生真面目な人なのだろう
確かに「7月22日」は軽々しく扱っていい題材ではない
作品の出来も上出来の部類である
しかし、もう少しの工夫があれば、もっと観客に満足感を与える出来になったのではないか
正直、そう思わざるを得ない

実際の事件

アンネシュ・ベーリング・ブレイビクはオスロ政府庁舎爆破事件で8人、ウトヤ島銃乱射事件で69人
合計77人を殺した
これは単独犯の犯行としては、世界史上最大である
犯行の動機は移民から国を守るためだったとし、「残酷だが、必要な措置だった」と語っている

ブレイビクの刑は?
77人を殺して禁錮21年という刑に、軽すぎると驚く人は多いだろう
死刑になってしかるべきだ
実はノルウェーには死刑や終身刑がない
禁錮21年は最も重い量刑なのだ
ノルウェーの人々は憎悪に憎悪で応えることを否定している
実際、ノルウェーでの殺人事件は年間に平均して1件しか起こらないらしい
人口の違いはあるものの、日本とは比べ物にならない

実際のブレイビクの画像

ビリヤルたちが所属していた労働党青年部とは何か?
ノルウェーでは各政党に「青年部」があり、ここから未来の有望な政治家が育成される
現在の首相や大臣たちも、多くが青年部で10代の頃から楽しい政治活動時代を送ってきた
ノルウェーにとって青年部の若者たちは「明るい希望に溢れた未来」そのものなのだ
ブレイビクはそこを狙った

実際のビリヤルの画像

まとめ

個人的には不満もあるが、見ごたえのある作品である
Netflixオリジナル作品の中でも上位に位置するだろう
見終わって十分な満足感を味わえた
それにしてもポール・グリーングラス監督までNetflixに参戦とは
今後のNetflix作品がますます楽しみだ


22 July (2018) on IMDb


rotten tomatoes
https://www.rottentomatoes.com/m/22_july/

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