映画「グリーンブック」感想と解説(ネタバレあり) この友情の前にはアカデミー作品賞も不要!?

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アカデミー作品賞を受賞
そういうことを抜きにしても普通に面白い
シリアスと笑いのバランスが絶妙
ヴィゴ・モーテンセンマハーシャラ・アリの演技が素晴らしい
正反対の二人の間に生まれる友情
ハッピーな気分で映画を見終えることが出来る
人種差別というデリケートな問題を扱っているものの、エンターテイメントとしてとっつきやすいものになっている
むしろ日本人が大好きな人情の物語である
アカデミー作品賞とか構えずに、気軽に見に行くといいだろう


予告編

【公式】『グリーンブック』3.1(金)公開/本予告 《本年度アカデミー賞作品賞含む3部門受賞!》

作品情報
作品名「グリーンブック」(原題Green Book)
監督:ピーター・ファレリー
キャスト:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリニ、ディミテル・D・マリノフ
上映時間:130分
製作費:$23,000,000 (IMDb推定)
製作国:アメリカ(2018年)

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ざっくりあらすじ

1962年、ニューヨークのナイトクラブで用心棒をしていたトニー・リップは、南部でコンサートツアーを計画する黒人ジャズピアニストのドクター・シャーリーに運転手として雇われる。二人は最初は衝突を繰り返すのだが………………

感想(ここからネタバレ)

この作品はアカデミー賞の発表前に見れなかったことが悔やまれる
もっと早く日本で公開していてくれれば………………

正反対の二人

1962年、ニューヨークのナイトクラブで用心棒として働くトニー・リップはガサツで教養はないが腕が立ち、周囲から頼りにされていた
そのナイトクラブが改装のため閉鎖された
家族を養うために、職を探すトニー
そんな彼に仕事の話が舞い込む
あるミュージシャンが南部にコンサートツアーへ出かけるので、運転手を探しているというのだ
ドクター・ドン・シャーリーというそのミュージシャンは、カーネギーホールに住む天才ピアニストで黒人だった
黒人が雇い主というのに引っかかりを覚えたものの、報酬に目がくらみ引き受けたトニー
コンサートツアーは8週間の予定だった
二人は黒人用旅行ガイド”グリーンブック”を頼りに車で出発した

物静かで品のいいドン
ガサツでおしゃべりなトニー
性格が正反対な二人はことあるごとに衝突した
きちんとした振舞いをするようにトニーに命令するドン
トニーは指図されるのが不快だった
しかし、ドンの素晴らしいピアノの演奏を目の当たりにして、トニーは感銘を受ける
この男は本物の天才かも知れない

たぐいまれなる才能を持ったドン
ところがステージから離れると、彼は黒人というだけで露骨な差別を受けていた
その姿を見てトニーはショックを受ける
何故ドンは黒人差別が色濃い南部へツアーに来たのだろうか?
二人の旅はまだ始まったばかりだった………………

登場人物

トニー・“リップ”・バレロンガ
無学で粗野だが家族思いで腕っぷしが強い
最初はドンのことをいけ好かない奴だと思っていたが………………
演じるのはヴィゴ・モーテンセン

代表作

「イースタン・プロミス」
デヴィッド・クローネンバーグが描くバイオレンス・サスペンス
ロシアン・マフィアを演じるヴィゴ・モーテンセンは素晴らしい存在感
初めてアカデミー主演男優賞にノミネートされた

ドクター・ドン・シャーリー
カーネギーホールに住む天才ピアニスト
真面目で几帳面な性格
演じるのはマハーシャラ・アリ

代表作
「アリータ バトル・エンジェル」
ジェームズ・キャメロン念願の企画
マハーシャラ・アリはこちらでは悪役を好演

爆死確実 アリータの目が大きくて気持ち悪い 今どき、サイバーパンクなんてはやらない 今までネガティブなことばかり気にして、すみませ...

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監督

ピーター・ファレリー
「ジム・キャリーはMr.ダマー」「メリーに首ったけ」など、弟のボビー・ファレリーとともにファレリー兄弟としてコメディ映画を監督してきた
単独で監督したのは本作が初である

見事な演技

ヴィゴ・モーテンセン
「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのアラゴルンや「イースタン・プロミス」の謎めいたマフィアなど、どちらかというと思慮深い複雑なキャラクターを演じることが多かった
この「グリーンブック」ではイタリア系で粗野でガサツで気が短いが単純で義侠心のある男を見事に演じている
今までのキャラクターとのギャップに驚いた
あまりのハマりっぷりに本当にイタリア系だと勘違いしそうになるが、実際はデンマーク人である父親の血を受け継いでいる
ピーター・ファレリー監督にそこまでしなくていいと言われたにも関わらず、ヴィゴ・モーテンセンはこの役のために20ポンド増量した
ホットドッグ勝負のシーンでスタッフはバケツを用意していたが、ヴィゴ・モーテンセンは15個を本当に平らげた
腕っぷしが強いが情に厚いトニー・リップというキャラクターは、昔の東映ヤクザ映画や「男はつらいよ」の寅さんに通じるものがある
日本の観客に好まれるキャラクターだ

マハーシャラ・アリ
初めてマハーシャラ・アリを見たのはNetflixのドラマ「ルーク・ケイジ」の非情なマフィアのボス、コットンマウス役だった

その役があまりに強烈だったため、いい人を演じていてもついつい警戒してしまう
物静かで教養があり繊細で孤独な天才ピアニスト、ドクター・ドン・シャーリーを、マハーシャラ・アリは圧倒的な存在感で演じている
そのカリスマ性と複雑で孤独な内面の表現は絶品
また本人が演奏しているとしか思えないピアノの演奏シーンも素晴らしい
マハーシャラ・アリはこの役で「ムーンライト」に続いてアカデミー助演男優賞を受賞した

二人の友情

正反対の二人にいつしか芽生える友情
定番だが見ていてやはり心地いい
面白いのはケンタッキー・フライド・チキンのシーン
育ちがよくナイフとフォークがないと食べられないというドンに、トニーが美味しいフライド・チキンの食べ方を伝授する
フライド・チキンは手づかみで食べるのがいちばん美味い
それまで人を寄せ付けない印象だったドンが、トニーを真似してチキンを食べる姿がとても微笑ましかった

また、トニーが妻に送る手紙を書くシーンも面白い
手紙を読んで、小学生の作文かと呆れたドンが、代わりに文章を考えてやる
トニーにふさわしくないロマンチックな文章に、笑いと共に不思議な感動を覚える場面だ

まったく正反対の二人が知らずに相手に影響を及ぼし合う
そんな姿が魅力的なエピソードの積み重ねで描かれ、友情が育まれる様を心地よく見届けることが出来る

見事な演出

本作で驚いたのはこれまでコメディ映画専門だったピーター・ファレリー監督の演出力
活気のある絵作りと、人物の描き方の的確さは惚れ惚れするほどだった

ナイトクラブ
トニーの家族や親戚たち
車の中でのトニーとドン

その臨場感とリアルな空気は見事だった
そして、シリアス笑いのバランスが絶妙
重いテーマも扱いながらも、メリハリある演出で決して退屈させない
正直、ここまで力量のある監督だとは思っていなかった
アカデミー監督賞にノミネートすらされなかったのが不思議なほどだ

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脚本

アカデミー脚本賞を受賞した脚本
とにかく人物がよく描けている
この作品は壮大なテーマを扱った格調高い作品ではなく、痛快で清々しい人情物である
脚本を担当した一人はトニー・リップの実の息子、ニック・ヴァレロンガ
親父さんから聞いたちょっといい話を小気味よく豊潤に描き出している

差別と偏見

VIP待遇なのにレストランに入れない
トイレを使えない
グリーンブックに載ったホテルにしか泊まれない
理由もなく警官に職質を受ける
通された楽屋はただの物置

著名人であるはずのドクター・ドン・シャーリーが、黒人というだけで受ける差別の数々
見ていていたたまれない気分になる
だが、ドンは有名人なだけまだマシなのだ
もっと酷い扱いを受けている黒人がほとんどなのだから

ドンをもてなす地元の名士たち
しかし、それは上辺だけ
自分は教養人だという周囲へのアピールをしたいだけなのだ
だから、ドンがピアノから離れると、途端に手の平を返す
差別と偏見の根深さに恐ろしくなった

アカデミー作品賞

この「グリーンブック」は見事に第91回アカデミー賞の作品賞に輝いた
名誉あることだ
だが、正直に言うと素直に喜べない部分がある

作品の出来は素晴らしかった
十分にオスカーにふさわしい
けれど、純粋な作品の評価で選ばれたわけではない節があるのだ

最有力といわれていたアルフォンソ・キュアロン監督の「ROMA/ローマ」

ヴェネチア国際映画祭(金獅子賞) NY批評家協会賞(作品賞、監督賞、撮影賞) LA批評家協会賞(作品賞、撮影賞) すでに様々な賞を...

結果的には監督賞と撮影賞と外国語映画賞の3冠で、作品賞には選ばれなかった
Netflixのような動画配信サービスの映画に作品賞は渡せない
代わりに手ごろな作品はないか
そういったアカデミー会員の思惑で「グリーンブック」が選ばれたという説があるのだ
監督賞にノミネートされなかった作品が作品賞に選ばれたという点も、その噂に信憑性を与えている

これらはあくまでである
しかし、そういった疑念を持っている人々がいるのも事実だ

「グリーンブック」は爽快で心地いい人情ドラマであり、娯楽作品
そういった作品が、アカデミー作品賞に選ばれたというのは意義がある
だが、この作品が人種差別というデリケートな問題を扱っているのも事実

本来は気持ちのいい娯楽作品として、人々に愛されていくはずだった「グリーンブック」
それがアカデミー作品賞という業界人が選ぶその年の頂点に選ばれたせいで、色々と物議を醸しだした

白人が黒人に救いの手を差し伸べるご都合主義
現実を直視せず、いい話にまとめてしまった無神経さ
実際は差別はいまだに続いているというのに!!

実際にあったちょっといい話である「グリーンブック」は、大仰でお堅いアカデミー作品賞とは相性が悪かった気がする
おかげでせっかくの気持ちのいい作品にケチがついてしまった
難しいことを考えずに、作品賞受賞を素直に喜んでおけばいいのかも知れないが………………

実際のエピソード

トニーが警官を殴ってしまい拘置所に入れられ、ドンがロバート・ケネディに電話して救いを求めたエピソード
さすがに盛りすぎだと思ったが、驚いたことに実話らしい
それはロバートの兄、ジョンF.ケネディ大統領が暗殺される数日前だったそうだ

トニーとドンの友情はエピローグにあった通り、50年以上続いた
ドンはヨーロッパツアーの時もトニーに運転手とボディガードをお願いしたが、トニーはもう家族と離れたくないと断ったという

この映画は実際にトニーとドンから息子のニックが聞いた話と、トニーが妻に送った手紙に基づいている

まとめ

笑いあり、涙あり
清々しい気持ちのいい作品である
トニーとドンの珍道中からは目が離せない
そして最後には心が温まる
アカデミー作品賞などと身構えずに、気軽に楽しむといいだろう

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Green Book (2018) on IMDb


rotten tomatoes
https://www.rottentomatoes.com/m/green_book
allcinema
http://www.allcinema.net/prog/show_c.php?num_c=365598

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