「男はつらいよ お帰り 寅さん」感想と解説(ネタバレあり) ありがとう、そしてさようなら寅さん

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あの「男はつらいよ」の22年ぶりの新作であり完結編
懐かしい「くるまや」の面々
シリーズ特有の暖かい雰囲気
寅さんの存在感
過去の作品のシーンがふんだんに挿入されるが、単なる総集編にはなっていない
人情もの、ラブストーリーとしても素晴らしいものになっている
山田洋次監督の手腕は全く衰えを見せていない
もはや熟練の域に達している
クライマックスは涙なしには見られないだろう
寅さんの一挙一動に笑いが起こる劇場
まるで実家に戻ってきたような安心感
ファンなら必見
シリーズの締めくくりとして、ふさわしいものとなっている


予告編

映画『男はつらいよ お帰り 寅さん』予告映像

作品情報
作品名「男はつらいよ お帰り 寅さん」
監督:山田洋次
キャスト:渥美清、吉岡秀隆、後藤久美子、倍賞千恵子、前田吟、浅丘ルリ子
上映時間:116分
製作国:日本(2019年)

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ざっくりあらすじ

小説家になった満男は久々に葛飾の実家を訪れるが………………

感想(ここからネタバレ)

実はそこまで熱心なファンではなかったので、シリーズ全作を見ているわけではない
だが、いつもの主題歌が流れた時点で、一気に記憶が引き戻された
もはや遺伝子にこのシリーズが刻み込まれているのだろう

再会

サラリーマンを辞めて、念願の小説家になった満男
今は中学三年生の娘ユリとマンションで二人暮らし
最新作の評判も上々だった
出版社の担当編集・高野から次回作を打診されていたが、満男はいまいち乗り気になれずにいた

妻のの七回忌の法要で、満男は久々に実家の葛飾の団子屋「くるまや」を訪れた
今ではカフェとなった「くるまや」には、両親のさくらが暮らしている
集まる近所の懐かしい顔ぶれ
次第に話は伯父の寅次郎のことになった
騒々しくてトラブルメーカー
でも、明るくて人懐っこく優しかった寅さん
そんな伯父さんが満男はとても懐かしかった

ある日、しぶしぶ引き受けたサイン会で、満男はかつての恋人イズミと再会する
イズミは今は海外で夫と子供たちと暮らしていた
仕事で日本に戻ってきた時、たまたま満男のサイン会のことを知り駆け付けたのだ

満男はイズミをあるジャズ喫茶に連れていく
そこはかつて寅さんが愛した女性リリーが経営する店だった
久々の再会に喜ぶ三人
いつしか話は寅次郎のことになった
そこでリリーは二人が知らない、思いがけない寅さんとの過去を語り始めた………………

「男はつらいよ」シリーズ

本作で50作目
“一人の俳優が演じたもっとも長い映画シリーズ”としてギネスにも認定
まさに国民的映画シリーズだ

元々は全26話のテレビドラマとして放送され、人気を博した
ところが最終回で寅さんがハブに噛まれて死亡
視聴者から抗議が殺到した
その反響の大きさから映画化が決定した
原作の山田洋次が自ら監督した映画は大ヒット
やがて松竹のドル箱シリーズとなった

シリーズの魅力は何といっても寅さんだろう
そして、おなじみの「とらや(くるまや)」の面々
葛飾柴又の寅さんの故郷
寅さんが旅する全国の風景
魅力的なマドンナたち
笑い、喜び、切なさ
庶民の生活に寄り添った視点
山田洋次監督の類まれなる演出力
登場人物たちの自然な演技
マンネリなようで新しい発見がある
世界に例を見ないシリーズだったと思う

「お帰り 寅さん」

この最新作を見る前は、正直不安だった
シリーズのかなめは寅さんである
だが、渥美清が亡くなった今、はたして成立するのか?

そんな不安は冒頭で、お馴染みの主題歌が流れると吹き飛んだ
細胞が活性化するような感覚
もはや遺伝子に刻み込まれているのだろう
いっきに寅さんの世界に感覚が戻っていった
主題歌を桑田佳祐が歌うというサプライズも面白かった

物語も22年という月日が経っていた
満男はサラリーマンを辞め、念願の小説家に
中学三年生の娘ユリとマンションで二人暮らし
実家の「くるまや」はカフェになっている
おいちゃん、おばちゃんはもういない
両親の博とさくらが二人で住んでいる
タコ社長もすでにいない
長い年月で様々なことが変わってしまった

親戚の近況を知るような懐かしくて寂しい不思議な感覚
知った顔が、今でも元気でいることが嬉しい
でも、そこには寅さんがいない

「伯父さんに会いたい………………」

満男のつぶやきは観客みんなの心の代弁である
あの寅さんに会いたい

車寅次郎

この作品を見て改めて思い知ったのが、渥美清の偉大さ
寅さんの存在感である

優しくて明るく面倒見がいい
その一方、子供っぽくて短気
定職に就かず全国を放浪
毎回、美しいマドンナに惚れて舞い上がり、はかない恋で終わる
トラブルメーカーで困った大人
だが、その自由な生き方に憧れた

ハードボイルドになりきれない寅さん
探せば身近にいそうな親しみやすさ
そこが愛された

またそんな寅さんを、困りながらも許容する「くるまや」の人々
今の時代にはない人情、心の余裕のようなものがあった
その空気が心地よかった

この「お帰り 寅さん」では、過去の作品の寅さんのシーンが時折挿入される
一歩間違うとつぎはぎだらけの、安っぽいものとなっただろう
ところが寅さんは今見ても輝いていた
その明るさ
粋な口上
一挙一動から目が離せない
まさに渥美清の天性の才能である
劇場では笑いが起こっていた
寅さんが大好きな観客たちの暖かい笑い
これぞ「男はつらいよ」を見る醍醐味

諏訪満男

この物語の主人公は寅さんの甥である満男である
妻を病気で亡くし、男手一つで娘のユリを育ててきた
ユリは明るくいい子に育った
だが、いまだに満男は再婚をしようとしない
そんな満男の前に、かつての恋人イズミが現れる

「男はつらいよ」シリーズの後半は、満男はもう一人の主人公だった
満男と泉(イズミ)の恋が数作に渡って描かれた
それは体調が悪化した渥美清の負担を、軽減するためのものだったのだが

シリーズ第49作「男はつらいよ 寅次郎花へんろ」
そこで満男と泉の結婚が描かれるはずだった
ところがその前に渥美清が亡くなった
「寅次郎花へんろ」は幻に終わってしまった

あらすじは変わってしまったが、この「お帰り 寅さん」は満男とイズミの恋の結末が描かれる
未完成で終わっていた物語
この作品が蛇足のように感じられないのは、描かれるべくして描かれた物語だからだろう
むしろ22年という時を経て、より深みのあるものとなった
満男とイズミの物語はようやく完結したのだ

イズミの母親礼子
水商売をしている礼子は気が強い女性だ
そのためイズミとケンカになり、満男の運転する車から降りてしまう
怒りのあまり、置いていこうとするイズミ
満男はそんなイズミを諭す
それは駄目だ
たった1人の母親じゃないか
この時の満男は、まるで寅さんが乗り移ったかのようだった
寅さんがいなくなっても、その人情味は満男に受け継がれていたのだ

クライマックス

ラスト、寅さんに思いをはせる満男
そこに過去のマドンナたちの映像が次々と画面に現れる
圧倒されるシーンだ
何故か無性に涙が出た

寅さんが憧れたマドンナたち
長い年月の積み重ね
シリーズの歴史
「男はつらいよ」シリーズでなければ、こんなシーンは成立しなかっただろう
まさに奇跡
世界で唯一無二の存在なのだと思い知らされる
ここでようやく、この国民的シリーズが完結した

まとめ

「男はつらいよ」シリーズのファンなら必見
真の完結編である
ようやくシリーズが終わりを迎えた
見れないはずだった完結編を見せてくれた山田洋次監督に感謝
改めてシリーズを見直したくなった

allcinema
https://www.allcinema.net/cinema/366665

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