Netflixオリジナルのイギリス映画
1960年代から1970年代にかけて、イギリスで世界初の体外受精の出産の研究に取り組んだ3人の科学者たちの驚きの実話
体外受精が成功するまでの困難な道のりを描いたヒューマンドラマ
見ると見識が広がる良作
不妊女性の希望となる体外受精
それが当時、ここまで世間から反対されていたとは全く知らなかった
国家、教会、医療団体、マスコミからの激しいバッシング
孤立無援の状態で進められる研究
体外受精が成功するまでに、ここまでの苦難の道のりがあったとは
物語は看護師であるジーンの目を通して描かれる
ジーン役のトーマシン・マッケンジーを始め、役者陣は皆が素晴らしい
頑固な産科医を演じたビル・ナイは相変わらず最高だった
そして、クライマックスは本当に感動的
確かに地味な内容で、話題作とは言い難い
しかし、見れば多くのものが得られる逸品だ
予告編
作品情報
作品名「JOY: 奇跡が生まれたとき」(原題Joy)
監督:ベン・テイラー
キャスト:トーマシン・マッケンジー、ジェームズ・ノートン、ビル・ナイ、ジョアンナ・スキャンラン、ターニャ・ムーディ、リッシュ・シャー
上映時間:115分
制作国:イギリス(2024年)
ざっくりあらすじ
1960年代のイギリス、看護師のジーンは生物学者のエドワーズ、産科医のステプトーと共に、世界初の体外受精による出産の研究に取り組むが…………
感想(ここからネタバレ)
当時、SNSがあったら大変なことになってただろうな…………
「JOY: 奇跡が生まれたとき」
1968年5月、看護師のジーン・パーディはケンブリッジのロバート・エドワーズ博士の研究室に雇われた
エドワーズは生物学者で、不妊治療の研究をしていた
そのためエドワーズとジーンは、オールダムの才能ある外科医兼産科医であるパトリック・ステプトーに協力を依頼する
体外受精のアイデアを聞いて、ステプトーは興味を持ち、その依頼を引き受けた
しかし、エドワーズとジーンはオールダムのステプトーの病院まで、毎日4時間をかけて通わなければならなかった
母親から卵子を取り出し、父親の新鮮な精子を送り込み、その受精卵を体内に戻す
それで女性は妊娠するはずだった
だが、何度試しても、実験は上手くいかなかった
その内にマスコミが嗅ぎつけ、悪魔の医療だと騒ぎ立てた
波紋は瞬く間にイギリス中に広がり、教会や医療業界からも叩かれた
ジーンも信心深い母親から、会いに来ないでくれと言われて…………
作品解説
監督は「セックス・エデュケーション」などのベン・テイラー
本作は2024年11月15日に、イギリスとアイルランドで限定劇場公開された
ジーン・パーディ
大学を卒業したばかりの看護師
エドワーズに雇われ、体外受精の研究に関わることになる
重度の子宮内膜症で、子供は産めないと言われている
次第に研究にのめり込んでいくが…………
演じるのは「ジョジョ・ラビット」「ラストナイト・イン・ソーホー」などのトーマシン・マッケンジー
Netflix映画では「キング」「パワー・オブ・ザ・ドッグ」に出演
ロバート・エドワーズ
ケンブリッジ大学の生物学者
体外受精の研究に取り組んでいる
だが、そのせいで世間から激しいバッシングを受けて…………
演じるのは「ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語」などのジェームズ・ノートン
Netflix映画では「闇はささやく」に出演
パトリック・ステプトー
産科医で腕利きの外科医
かなり頑固な性格で、大学では疎まれている
エドワーズたちの体外受精の研究に協力するが…………
演じるのは「アバウト・タイム 愛おしい時間について」「生きる LIVING」などのビル・ナイ
ビル・ナイ大好き!!
偏屈だが本当は心暖かいキャラクターを演じたら最高で、本作もハマり役だった
Netflix映画では「ビューティフル・ゲーム」に出演
不妊治療
本作は体外受精成功までの道のりを描いた実話
母親の身体から卵子を取り出し、それに父親の精子を受精させ、母親の体内に戻して妊娠させる
だが、初めての取り組みであり、実際に妊娠する確率は低い
それでも、少しでも可能性があるならと、研究に申し込む大勢の女性の姿が印象的だった
不妊などごく一部の女性だけで、大した問題ではない
科学の発展のために、もっと有意義な研究をすべきだ
劇中でも多くの医師や科学者がそんな発言をする
一方で不妊に苦しんでいる女性たちは、その研究に一縷の望みを抱き、必死にすがりつく
その温度差が非常に上手く描かれていた
不妊を題材にした作品には、Netflix映画「プライベート・ライフ」がある
これも上質な演技と演出で見せる良作でお勧め
逆風
不妊で苦しんでいる女性たちを救うために始めた研究
だが、世間の風当たりは想像を超えていた
神への冒涜だと罵られ、エドワーズはフランケンシュタイン博士とさげすまれた
ジーンは教会を出禁になった
今では珍しくなくなった体外受精
それが当時はここまで反発を招いていたとは思いもしなかった
しかし、反対する方の意見も一理ある
もし赤ちゃんが障害を持って生まれてきたら、どう責任を取るのか?
何しろ初めての試みである
結果は誰にも分からないのだ
当時なら自分も反対していたかも知れない
劇中で印象的だったセリフにこういうものがある
重要なのは「選択肢」だというのだ
体外受精が絶対に正しいと言っているわけではない
だが、女性には体外受精を選択する権利も、選択しない権利もある
選択肢があることが大切なのだ
非常に深く考えさせられる言葉だった
無視された偉業
1978年7月25日、体外受精による世界初の「試験管ベビー」であるルイーズ・ジョイ・ブラウンが誕生した
研究を始めてから10年以上が経過して、ようやく努力が実を結んだのだ
病院に響き渡る赤ん坊の泣き声
それを聞いて出産が成功したのを悟り、思わず抱き合うジーンとエドワーズ
とても感動的な場面だった
世間は手のひらを返したように体外受精の成功を絶賛
しかし、評価されたのはロバート・エドワーズとパトリック・ステプトーだけだった
日本のウィキペディアにも、その2人の名前しか載っていない
研究への貢献度の高さにもかかわらず、ジーン・パーディの名前は無視されたのだ
肩書が看護師であること、女性であること、その悲劇的な早すぎる死(ジーンは1985年3月16日に39歳の若さで亡くなった)などが原因だといわれている
「体外受精の先駆者は2人ではなく3人いた」とエドワーズは記念碑にジーンの名前も入れるように訴えたが無視された
2015年になってようやくジーンの貢献も認められ、記念碑に名前が刻まれた
そうして本作によってさらに、ジーン・パーディの業績は世間に広まるだろう
そんな意味でも重要な映画である
まとめ
役者陣の演技が本当に素晴らしい
演出も堅実
体外受精の歴史について知らなかったことばかりで、深く考えさせられた
そして、ジーン・パーディという女性の存在を知れただけでも、価値のある映画だった
Rotten Tomatoes
https://www.rottentomatoes.com/m/joy_2024
allcinema
https://www.allcinema.net/cinema/397609
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